最後の宦官秘聞―ラストエンペラー溥儀に仕えて

清朝最後の皇帝、溥儀に仕えた宦官、孫耀庭(そん・ようてい)の人生を追ったルポ。

最後の宦官秘聞―ラストエンペラー溥儀に仕えて
賈 英華
日本放送出版協会
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このストーリーは大きく分けて2つに分かれる。
1つは「宦官」という独特の制度が、清代末期の動乱にどう生き抜いたか?もう1つが、中国の王宮での人物描写。これまで教科書レベルでしか知らなかった近代中国史を別の次元から教えてくれる本でもある。

ところで、「宦官」についてご存知だろうか。
宦官とは、宮廷に使える男性のことだが、科挙に合格したようなエリートとは違う。決定的な違いは、去勢をしていることである。学校に通うほどお金がない親は子どもを去勢をし、運良く宮廷に重用されることを願う。そうなれば、貧乏から抜け出せるし、「宦官をだした家」として裕福にもなれる。

当時の中国では25人に1人はやっていたという。きっとポピュラーな手術なんだろうと思っていたが、そんな「手術」を受けられるのは一部の人間のみで、実際は荒々しいという言葉以上のもの。その記述は読んでいるだけでも痛い。手荒いやり方で去勢をするので、傷口から細菌が入り死んでしまう人が多くいたらしい。言葉通り、「命をかけて」宦官を目指す。

主人公・耀庭も去勢をし宦官を目指す。だが、折しも清代末期。傷口もふさがり、さあこれからというときに清は崩壊し、宦官の新規募集は終了。母親は「使い物にならなくしてしまった」と泣き崩れるが、彼はしたたかに縁故を頼りに宮廷へと入り込み、持ち前のバランス力で人間関係をうまく渡り歩き、ついにラストエンペラー溥儀に仕えることとなる。

ただし、昔と比べて給与も高くなく、溥儀との日々も散々たるものだったらしい。そのなかでも詳しく描かれているのが、彼が性的偏向があり、今でいう「ED」だったり「アブノーマル」だったことだ。そのため、妃である婉容との仲が悪かった。こういう「スキャンダル」の記載が多いのだが、歴史の教科書には決して載らない、時代が動くその裏の要因に触れられて、とても好奇心がくすぐられる。

もう1つ興味深いのが、満州国の皇帝となったあとの溥儀の人間不信さ、そして関東軍が求めた厳しい規則に息苦しさを感じて北平(北京の旧名)に帰った、その後の話である。宦官は去勢されているため、家族を作ることができなかった(養子を取る人もいたらしいけれど)。そのため、仲間が集まって暮らすのだが、そこでも貧富の差が出て揉め事が生まれる。アヘンに溺れる宦官も多く、また性器がなくても性欲もあるが正常とは違った形で現れるため、それに関するトラブルも多かったらしい。何より、時代が彼らを不幸にさせていく。第二次世界大戦、辛亥革命、文化大革命など、「新中国」に流されるままに生きるしかない宦官たち。その姿が、本当に「歴史」を感じさせる。

歴史は物事が動くのではなく、人が動かしている。そのことを実感させてくれる1冊。

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